けものフレンズ2 感想 (構造に隠されたテーマ)

私はけものフレンズ2というアニメが好きで今でもよく見直すのだが、ちゃんとしてるなあと思う部分がそのたびに増えていく。
それが溜まり過ぎてしまったので備忘録がてら記録しておこうと思ったのがこの記事を書く動機だ。この記事は構造からテーマを読み解いてみようと試みるものだ。といっても全てを書いていては長ったらしくなるだけなので、必要なことをなるべく簡潔に書くよう努める。
 

 

 

1)メインテーマと構造に隠されたテーマ

はじめに、けものフレンズ2の基本となる軸についてだが、これは1話前半で提示されている。
・生まれたばかりの家も名もない子供が
・名前をもらい
・仲間と共に境界を越えて旅に出る
このような要素から簡単に予想はつくだろう。
キュルルを主人公とした「行って帰る物語」の類型だ。つまり、キュルルは旅の中で何かを得て何かを失い、通過儀礼を経て成長し、再びここに帰ってくる、という旅の行程を予め暗示していて、実際そうなっている。だが、ストーリーを分解していくと、これとは違うもうひとつの軸が浮かび上がってくることに気付いた。けものフレンズ2は3話毎に変化が発生するため、3話で章が区切られていると考えられる。ちょうどディスク1枚分だ。
さらに、6話で折り返しになり、1話と7話、2話と8話、といった並びで対比関係になっている。順番に見ていこう。

2)話ごとに置かれた対比の関係

まず1話から、キュルルがセルリアンに追われて転んだ際にカルガモが擬傷で助けるシーンがある。
これと酷似したシチュエーションが7話で描かれる。セルリアンに追われて転んだプロングホーンをチーターが助けるシーンだ。
これ単体であれば似たシチュエーションを繰り返してテーマを強調する仕掛けでしかないが、けものフレンズ2ではこのような繰り返しが何度も描かれる。2話と8話はどちらも動物園のアイドルという共通点があり、どちらの話も居場所(=帰る場所)についての話になっている。
3話と9話では、どちらも飼育員がいないため芸をする理由を失っている動物が登場する。このようにディスクの1枚目と3枚目は似た構図で配置されていて、対比関係にあると暗に示されていることがわかる。2枚目と4枚目も同様だ。4話では縄張りを移動するアードウルフと巣を斡旋するアリツカゲラの二者が登場し、10話で登場するリョコウバトとホテル組の三人と対比関係にあたる。渡り鳥であるため決まった巣を持たないことと宿泊施設を管理している部分がそれだ。
リョコウバトの帰る場所は群れの中にあるが、絶滅種であるため「帰る場所を失って」いる。この要素には3話のアシカとイルカ、6話のサーバルを失ったかばん、9話の飼育員を失ったイエイヌなど、各章末のエピソードが一斉に集約している。前期の10話ではアリツカゲラの運営するロッジに宿泊していて、そこからも重なる部分があることがわかる。
けものフレンズ2ではこういった形で並びを合わせて前期を参照している部分も多い。

3)対比によりリフレインする記憶

5話では前期のへいげんを思わせるキャラクターとストーリー展開があり、11話ではフレンズ達が大集合する前期を思わせる展開がある。どちらの話も「見たことのある光景」として対比の関係におかれている。
11話ではほかに4姉妹は実は仲がよかったというシーンが5話からのオチになっていて、2話のパンダの前フリも回収されている。5話ではもうひとつ、前半の茶番部分と後半のビースト登場シーンが対比関係となるよう1話の中で繰り返されていることも付け足しておく。ビーストの眼前を横切る火のついた紙飛行機〜かばんが登場するまでのシーンは「見たことのある光景」として機能する。「見たことのある光景」は何度も繰り返し描かれ、7話以降では6話までの各シーンがさらに折り重なっていく作りになっている。
プロングホーンを助けるチーターを見てカルガモを思い出し、PPPとマーゲイを見てふたりのパンダを思い出し、イエイヌを見てアシカとイルカを思い出す。
3話での海を知らないサーバルを見て多くの人は疑問に思ったはずだ。6話で博士と助手に半ば強引に空に連れ去られたシーンでは前期こうざんのトキを思い出すし、10話でリョコウバトに抱えられたシーンでは6話の博士と助手に抱えられたキュルルを思い出す。記憶がリフレインするのだ。11話のトラクターに乗って集合するシーンには2話のカルガモに案内される探偵コンビと、7話のトラクターに乗って出発するシーンが接続されている。
広角で撮ることで景色にも意味を持たせる構図や進行方向が同じであること、7話で対比されているカルガモも共通しているし、落ちたフルルに手を伸ばすシーンがあることもそれを裏付けている。これら作中に夥しく散りばめられた繰り返される「見たことのある光景」が「記憶を呼び起こす要素」として最後の海岸でひとつに収斂される。

4)導き出されたテーマ

けものフレンズ2は円をモチーフとした状況が置かれ、ストーリーが語られる。
ジャパリラインはモノレールであるため始点と終点は等しく入れ替わり、決められたレールの上を往復する。
公園を探している一行はレッサーパンダの案内でさんざん迷った挙句、入り口付近にそれを見つける。
リレートラックはスタート地点がゴール地点を兼ねている。
そのほか、浮き輪やボール、フリスビーなどの小物も円形だ。
これらのモチーフは物語が円環することを暗示している。物語の結びでホテルが崩壊したのは、キュルルのおうち探しの旅の終わりを意味する。
このときパークの入場口が旅の終点となっている。話のタイトルが「ただいま」であり、旅の終着点で彼らは新しい冒険に出発する。始点と終点がひとつになり、物語が円環したのだ。◇イルカとアシカは芸が人間とのコミュニケーションの手段だったと「思い出し」、イエイヌはかつて心を交わした飼育員たちを「思い出し」、かばんはサーバルにかつての自分たちを「憶えてる?」と問いかけ、サーバルはかばんちゃんと呼んでいたことを「思い出す」。物語は「見たことのある光景」を幾度となく繰り返して記憶を呼び起こし続ける。その果てに、はるか昔パークに来ていた少年の描いた絵と現在のキュルルたち三人の姿がついに重なるのだ。
連綿と紡がれていく記憶が円環し、かつての姿は何度でも永遠に蘇る。

5)さいごに

けものフレンズ2はシーン同士が重層的に響き合いながらテーマを浮かび上がらせる作品だ。
遠目では誰にでもわかりやすいシンプルなものに見え、少し目を凝らすと無数の粒子が互いに響き合ってひとつの像を形作っている。そういえばエンディングの映像もこのようなことを示唆していたじゃないかと思い出す。
やはりけものフレンズ2は傑作だ。対比関係など探せば枚挙に暇がなく、キリがないので一旦ここで区切りとする。

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